耐震性を考える前に知っておきたいこと|年代別ごとの家の耐震性能

はじめに

時代ごとの耐震性の違いとその理由

日本は地震大国であり、これまでに幾度も地震の被害を受け、そのたびに耐震基準が見直されてきました。

そのため、住宅の築年数によって耐震性が大きく異なります。

今回は、各年代における耐震基準の変遷と、その背景にある地震の影響について詳しく解説します。

 

耐震性の評価基準

耐震診断で用いられる総合評点(耐震性の数値)は、住宅の耐震性を数値化したもので、各年代ごとの平均値を示すことで、

その時代の建物の耐震性能を比較できます。耐震診断の評価は、通常以下の4段階に分けられます。

耐震診断の総合評点の4段階評価

評点 1.5 以上倒壊しない(十分な耐震性がある)

この評点は、非常に高い耐震性能を示しており、地震による倒壊のリスクが極めて低いことを意味します。

 

評点 1.0 以上 1.5 未満倒壊しない可能性が高い

この範囲では、一定の耐震性があり、地震時に建物が倒壊する可能性は低いと評価されます。

 

評点 0.7 以上 1.0 未満倒壊する可能性がある

この範囲に入ると、地震時に建物が倒壊するリスクがあり、耐震補強が推奨されます。

 

評点 0.7 未満倒壊する可能性が高い

非常に低い耐震性を示し、大規模な地震が発生した場合、建物が倒壊する危険性が高いと評価されます。

 

※平均評価点は、「木耐協で実施した耐震診断結果(は2006年4月1日~2018年12月31日の12年9ヶ月26,815棟)を集計したものです。
 あくまでも、参考とお考え下さい。

耐震基準

建築業界では、「旧耐震基準」と「新耐震基準」の二つの主要な基準があります。

 

旧耐震基準は、1981年5月31日以前の基準です。

この基準では、「震度5強程度の中規模地震に対して建物が倒壊・崩壊しない」ことが求められていました。

そのため、震度6~7程度以上の大規模地震は想定されておらず、当時は巨大地震に対する耐震技術の開発も十分に進んでいませんでした。

 

新耐震基準は、1981年6月1日以降の基準です。この基準では、「震度5強程度の中規模地震」に対して建物がほとんど損傷せず、

震度6強~7程度の大規模地震に対して建物が倒壊・崩壊しない、また多少の損傷は許容」となっています。

 

しかし、1995年阪神・淡路大震災では、新耐震基準で建てられた建物にも被害が生じたため、

基準がさらに厳しく改正されました。この改正基準は、分かりやすく「2000年基準」と表記します。

 

このように、建築基準法は、巨大地震が発生するたびにその影響や被害を検証し、

基準の見直しを行うことで、より耐震性の高い安全な住まいづくりに生かされています。

 

そもそもの家に求められる強度が変わっているため、

2000年(平成12年)より前に建てられた家では、専門家による耐震診断や、必要に応じた耐震補強工事を検討することが重要です。

また、2000年以降に建てられた住宅であっても、専門家による定期的な点検や、大震災後の点検、補強工事を検討することが、

長期的な耐震性を維持するためには不可欠です。

とはいえ、診断前にどの程度のリスクがあるかを知っていただくために、まずは次の項目「年代別で見る木造住宅の耐震性」をご確認ください。

年代でみる建物の耐震性

1950年(昭和25年)以前|伝統的な木造建築の耐震性

平均評点:0.35以下 倒壊する危険性が高い

 

1950年(昭和25年)に建築基準法が制定される以前に建てられた住宅は、主に伝統的な木造建築が中心です。

この時代の住宅は、大工の経験や技術に依存して建てられており、耐震性には限界がありました。

特に、現代の耐震基準と比べると、耐力壁の配置接合部の強度が十分ではなく、強い地震に対して脆弱な傾向があります。

そのため、こうした古い住宅にお住まいの場合、専門家による耐震診断や必要に応じた補強工事を検討することが重要です。

 

評価点

  • 法的基盤の確立
  •  1950年に建築基準法が制定され、これにより日本における建築物の安全基準が法的に確立された点は大きな評価に値します。
  • これにより、建物の設計や施工に関する明確な基準が初めて設定されました。
  • 耐震性の向上への一歩
  • 建築基準法の制定によって、木造住宅における耐震性を向上させるための第一歩が踏み出されました。
  • 特に、壁量計算の導入は、耐力壁の設置を求めることで建物の地震耐性を高める試みが始まりました。
  • 全国的な統一基準
  • 建築基準法の導入により、全国で統一された建築基準が適用されるようになり、
  • 地域ごとに異なる建築物の安全性を均一化することに寄与しました。

多く見られる構造的問題

  • ○ 耐力壁の不足
  • 当時の住宅は、耐力壁の数が少ないことが一般的であり、
  • 地震の際に建物が横揺れに対して十分な抵抗力を持てない可能性があります。
  • 接合部の脆弱性
  • 柱や梁の接合部に金物が使用されていない、または補強が不十分であるため、
  • 地震の際に接合部が破損しやすく、建物全体の崩壊につながる危険性があります。
  • 基礎構造の問題
  •  基礎が石積みや簡素な布基礎である場合が多く、地震時に地盤の揺れに対して基礎が弱く、
  • 建物全体の安定性が低下する可能性があります。
  • 木材の劣化
  • 古い木造住宅では、使用されている木材が経年劣化しており、
  • 特にシロアリ被害や腐朽により強度が低下していることがあります。
  • これにより、建物全体の耐震性が著しく低下していることが考えられます。
  • 偏心の問題
  • 耐力壁や重心のバランスが悪く、建物が偏心することで、地震時に特定の部分に過度の力が集中し、
  • 部分的な崩壊が起こるリスクがあります。

1950年(昭和25年)~1959年(昭和34年)|旧耐震基準の始まり

平均評点:0.38~0.39以下 倒壊する危険性が高い

 

第二次世界大戦の復興のために、1950年に市街地建築物法が建築基準法に改められます。

この時期に木造住宅に必要な筋交いなどの量を定めた「壁量計算」が導入されました。

これが、今後30年間続く「旧耐震基準」の始まりとなります。

多く見られる構造的問題

  • 壁量計算の限界
  • 当時の壁量計算は、主に建物の水平耐力を確保することを目的としていましたが、
  • 現代の基準と比べて耐力壁の数や配置が不十分な場合が多いです。
  • 接合部の強度不足
  • 旧耐震基準では、柱や梁などの接合部に十分な補強が施されていないことが多く、
  • 地震時に接合部から崩壊するリスクが高まります。
  • 基礎の設計
  •  基礎の設計が簡素である場合が多く、地盤の状態に応じた補強が不足していることがあります。
  • これにより、地震時に基礎が損傷しやすく、建物全体の安定性が低下する可能性があります。
  • 耐力壁の配置不均衡
  •  耐力壁が適切に配置されていないため、地震時に建物全体が偏心し、部分的な損壊が起こりやすいです。

 

1959年(昭和34年)~1971年(昭和46年)|旧耐震基準の改正(その1)

平均評点:0.39~0.45以下 倒壊する危険性が高い

 

1959年に、旧耐震基準の下で壁量計算が強化されました。

この時期には、木造住宅の耐震性を向上させるための取り組みが行われましたが、

現在の基準と比べると、依然として壁量が不足していることが多いです。

評価点

  • 耐震性の向上
  • 1959年の改正では、壁量計算が強化され、従来よりも多くの耐力壁を設置することが求められました。
  • これにより、建物全体の耐震性が一歩進んだと評価できます。
  • 基礎設計の進展
  • この時期に、基礎の設計も徐々に見直され、地震時に基礎が建物を支える力を高める努力が始まりました。

多く見られる構造的問題

  • 壁量の不足
  • 改正により壁量が増加したものの、現代の基準と比べると依然として不足している場合が多く、
  • 強い地震に対して十分な耐性が確保されていない可能性があります。
  • 接合部の不十分な補強
  • 柱や梁の接合部において、金物による補強が不十分であることが多く、
  • 地震の揺れに対して接合部が破損しやすいです。
  • 基礎構造の限界
  • 改正によって基礎設計が進展したとはいえ、依然として地盤条件に応じた設計が不足しており、
  • 地震時に基礎が損傷するリスクがあります。
  • 偏心によるリスク
  • 壁量計算が強化されましたが、耐力壁の配置が不均衡な場合、建物全体が偏心し、
  • 特定部分に過度の負担がかかり、損傷や倒壊のリスクが高まります。

1971年(昭和46年)~1981年(昭和56年)|旧耐震基準の改正(その2)

平均評点:0.45~0.51以下 倒壊する危険性が高い

 

968年の十勝沖地震の教訓を受けて、旧耐震基準に基づく住宅の基礎の強化が行われました。

この改正により、無筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造の布基礎を採用することが規定され、

多くの住宅で無筋コンクリートの基礎が採用されるようになりました。

評価点

  • 基礎の強化
  • 1968年の十勝沖地震を受けて、基礎の設計が見直され、無筋コンクリートや鉄筋コンクリートの布基礎が標準となりました。
  • これにより、地盤の強度や建物全体の安定性が従来よりも向上し、耐震性が一歩進んだことが評価されます。
  • 地震リスクへの対応
  • 過去の地震被害を受けて、基礎の強化が行われたことは、地震リスクを認識し、対策を講じる重要性が理解されていたことを示しています。

多く見られる構造的問題

  • 無筋コンクリート基礎の限界
  •  無筋コンクリートの基礎は、鉄筋コンクリートに比べて強度が劣り、地震時にひび割れや損傷が生じやすいという欠点があります。
  • 特に大規模な地震では、基礎が破損するリスクが高まります。
  • 基礎の耐久性
  • 無筋コンクリートは、時間の経過とともに劣化しやすく、特にひび割れが生じた場合には水分や化学物質が侵入し、
  • 基礎全体の耐久性が低下する可能性があります。
  • 基礎と地盤の相互作用
  • 基礎が無筋コンクリートである場合、地盤の状態によっては基礎が十分な耐震性を発揮できないことがあります。
  • 地盤が弱い場合、基礎の強度が不十分となり、建物全体の耐震性が損なわれるリスクがあります。
  • 壁量の不足
  • この時期の住宅では、耐震性を確保するための耐力壁の量が依然として不足していることが多く、
  • 特に大規模な地震時には建物の横揺れに対する抵抗力が不十分です。
  • 接合部の不十分な補強
  • 柱や梁の接合部に対して、適切な補強が行われていないケースが多く、地震時には接合部が破損しやすくなっています。
  • これにより、建物全体の構造が弱くなり、崩壊のリスクが高まります。

1981年(昭和56年)~2000年(平成12年)|新耐震基準

平均評点

1988年頃まで 0.51~0.58以下 倒壊する危険性が高い

1993年頃まで 0.62~0.68以下 倒壊する危険性が高い
1994年以降  0.71~1.01以下 倒壊する可能性がある 又は 一応倒壊しない

 

1978年の宮城沖地震では、特に軟弱な地盤に建つ建物に大きな被害が出ました。

この地震を契機に、1981年に「新耐震基準」が導入されることとなりました。

この基準では、建物の基礎耐力壁に関する強化が図られ、耐震性が向上しました。

さらに、徐々に鉄筋コンクリート基礎が普及し、平金物筋交いプレートが使われ始め、

1988年頃にはホールダウン金物が使用されるようになりました。

評価点:

  • 耐震性の飛躍的向上
  • 新耐震基準の導入により、基礎や耐力壁が強化され、建物全体の耐震性が大幅に向上しました。
  • これにより、震度6から7の地震においても、人命に危害を及ぼす倒壊を防ぐことが期待されるようになりました。
  • 鉄筋コンクリート基礎の普及
  • 鉄筋コンクリート基礎の普及により、建物の基礎の耐久性と耐震性が従来の無筋コンクリート基礎に比べて格段に向上しました。
  • 接合部の強化
  • 平金物や筋交いプレート、ホールダウン金物の使用により、柱や梁の接合部が強化され、
  • 地震時における建物の揺れに対する耐性が向上しました。

多く見られる構造的問題

  • 基礎と地盤の相互作用の問題
  • 鉄筋コンクリート基礎が普及したとはいえ、地盤の状態に適応した設計が十分に行われていない場合、
  • 地盤が弱い地域では基礎が損傷しやすく、建物全体の安定性が損なわれるリスクがあります。
  • 耐力壁の配置バランス
  • 新耐震基準では耐力壁が強化されましたが、耐力壁の配置が不均衡な場合、建物の特定部分に過度の負荷がかかり、
  • 地震時に局所的な損傷が発生する可能性があります。
  • 接合部の強度に対する過信
  • 平金物や筋交いプレート、ホールダウン金物が使用されたものの、施工の質や設計の適切さによっては、
  • 接合部が十分な強度を発揮しない場合があり、これが地震時の弱点となる可能性があります。
  • 施工不良のリスク
  • この時期に施工された建物の中には、施工の質が十分でないものがあり、
  • 特に接合部や基礎の施工不良が原因で、地震時に予期せぬ損傷が生じるリスクがあります。

 

 

  • 2000年(平成12年)以降|新耐震基準の改正=2000年基準(最新の耐震基準を満たした住宅)

    平均評点:0.45~0.51以下 倒壊する危険性が高い

 

1995年の阪神・淡路大震災では、新耐震基準で建てられた建物にも被害が生じたため、

さらなる基準の見直しが行われました。この結果、新耐震基準をさらに厳しく改正した耐震基準が導入されました。

 

この改正では、建物全体の耐震性を向上させることを目的に、以下の点が強化されています。

  • ○ 地盤に応じた基礎設計
  • ○ 基礎と柱の接合部に金具の取り付け
  • ○ 耐力壁のバランスと配置

評価点:

  • 地盤に応じた基礎設計の強化
  •  2000年以降の耐震基準では、地盤の特性に応じた基礎設計が求められるようになり、
  • これにより地震時の地盤沈下や液状化による被害を軽減する効果が期待されています。
  • 接合部の強化
  • 基礎と柱の接合部に金具を取り付けることで、建物全体の耐震性が向上し、
  • 地震時の建物の揺れに対する抵抗力が高まりました。
  • 耐力壁のバランスと配置の改善
  • 耐力壁のバランスや配置が見直され、建物全体が均等に揺れに耐えられるようになり、
  • 部分的な倒壊や損傷のリスクが減少しました。
  • 建物全体の強度向上
  • これらの改正により、建物全体の強度が大幅に向上し、特に震度6強から7に達するような大規模地震においても、
  • 人命に危害を及ぼすような倒壊を防ぐことが期待されます。

構造的な問題点:

  • 設計・施工のバラツキ
  • 新基準が適用されているとはいえ、設計や施工の質にバラツキがあるため、基準を完全に満たしていない場合があり、
  • これが地震時の予期せぬ損傷につながる可能性があります。
  • 既存の建物との接続部
  • 改修や増築が行われた際に、既存の建物と新基準を満たした部分との接続部が弱点となり、
  • 地震時にこの接続部から損傷が広がるリスクがあります。
  • 地盤の不均一性
  • 地盤に応じた基礎設計が求められていますが、地盤の調査が不十分な場合、
  • 実際の地盤の状態に適応しきれないことがあり、地震時の基礎の安定性に影響を与える可能性があります。
  • 耐力壁の設置不良
  • 耐力壁のバランスと配置が強化されましたが、施工不良や設計のミスにより、耐力壁が十分に機能しないケースがあり得ます。
  • これにより、建物全体の耐震性が期待よりも低下する可能性があります。

まとめ

日本は地震が多い国であり、建物の耐震性は私たちの安全を守るためにとても大切な要素です。

時代とともに耐震基準は進化してきましたが、その背景には、過去の地震で受けた被害があります。

そのたびに建築基準法が見直され、より安全な基準が導入されてきました。

 

現在でも、建築基準法には床や屋根の強さに関する明確な規定がない部分があり、

今後、施工技術や解析技術の発展に伴い、さらに耐震基準が強化される可能性があります。

 

まずは、診断や補強を行う前に、ご自宅の築年数や現在の耐震基準を確認し、

年代ごとに異なる木造住宅の耐震性を把握しておくことが大切です。

この記事を参考にして、あなたの住まいの耐震性を見直し、必要に応じた対策を講じて、

安心して暮らせる環境を整えてくださいね。

 

もし何かご不明な点がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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